東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)153号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
また、本願発明が、昭和五六年第四一四六九号の実用新案登録出願の時、すなわち昭和五六年三月二六日に特許出願されたものとみなされることも、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第四号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
本願発明は、四角いジヤケツト内に丸いデイスクを挿入したデイスケツトに関するものであつて、ジヤケツトやデイスクが損傷せず、かつ、エラーや回転中止等のトラブルが発生しないものを得ることを目的とする(第一頁第一四行及び第一五行、第二頁第三行ないし第五行)。デイスケツト(7)は、取扱いの際に、ヘツドコンタクト窓(3)から回転軸窓(4)を通る中央部分で折れ曲がりやすく、そのストレスがヘツドコンタクト窓(3)に近いジヤケツト縁部に集中して、ジヤケツト破損の原因となる(第三頁第一〇行ないし第一四行)。本願発明は、右欠点を解決するために、その特許請求の範囲に記載されたとおりの構成を採用したものであるが、その一実施例を述べると、第3図に示したとおり、ジヤケツト(2)内にデイスク(1)を挿入し、デイスク(1)がジヤケツト(2)から突出しないように部分的に周囲の舌部(5)を熔着(8)した後、最後に舌部(6)を折り曲げてジヤケツト(2)に熔着(8)するに際し、その熔着位置が、デイスク(1)の両側にあり、かつ、デイスク(1)面に重ならないようにしたものである(第二頁第一三行ないし第三頁第五行)。右構成の採用によつて、本願発明は、<1>最後に折り曲げられる舌部(6)の中央が熔着されず、その部分のジヤケツト縁部は他の部分に比較して柔軟であるから、前記ストレスはこの柔軟な部分に分散され、ジヤケツト(2)の破損を可及的に防止することができる、<2>ジヤケツトに入つているフレキシブルデイスクがジヤケツトの中央に保たれやすく、デイスケツトドライブに挿入して使用するときに、デイスクの回転軸孔(1)がドライブのスピンドルのテーパにはまりやすくなるので、デイスクの回転軸孔縁が損傷されずに正確に軸支することができる、<3>その結果、デイスケツトの連続使用時間が延長され、取扱いやすさが増大する等、工業上極めて大きい効果を得ることができる(第三頁第一五行ないし第四頁第七行、第四頁第一二行ないし第一五行)。
2 一方、成立に争いない乙第二号証によれば、引用例は、操作者がフロツピーデイスク(デイスケツト)を装置に差し込む状態を写した写真であつて、右デイスケツトのジヤケツトの上側及び左側、右側の各周縁には、折返しと推認される部分が認められ、さらに、右折返しと推認される各部分の内側に、その端縁に平行して黒線が断続的に存在することが認められる。
なお、原告は、引用例を拡大撮影した写真であることに争いのない甲第七号証の二ないし四に基づいて、引用例は鉛筆で修正されたもので、引用例とするに不適のものであると主張する。しかしながら、前掲乙第二号証を子細に検討しても、それが鉛筆等によつて修正されているとは認められないから、原告の右主張は採用できない。
そして、
<1> 前掲乙第二号証及び甲第七号証の二ないし四によれば、引用例記載のジヤケツトの上側及び左側、右側の各周縁の折返しと推認される部分は、その端縁に沿つて細い黒線が見られ、かつ、その部分がジヤケツト本体よりも厚みを有するように見えるが、一般に、舌部が折り返された箇所は重ね合わせのために他の部分より厚みを持つに至ること、及びこの種の袋状のものを製造する場合に、舌部を形成しこれを折り曲げて貼着するのがごく通常の手段であることを勘案すると、右折返しと推認される部分は、本願発明における折返し舌部に該当するものと認めることができる。
この点について、原告は、引用例記載のジヤケツトの右側の折返しと推認される部分の上部にみられる帯状の黒線の位置から判断すると、右折返しと推認される部分は、折返し舌部ではなく単なる枠にすぎないと主張する。しかし、前掲乙第二号証及び甲第七号証の二ないし四を精査すると、引用例記載のジヤケツトにおいて、右側の折返しと推認される部分の上部にみられる帯状の黒線の上端は、上側の折返しと推認される部分の下端の延長線のわずか上で終つており、原告のいうように右側及び上側の各折返しと推認される部分の接合部に形成される四五度の切り線を乗り越えて延びているとは認められないから、原告の右主張は採用できない。
<2> 次に、前掲乙第二号証及び甲第七号証の二ないし四によれば、引用例記載のジヤケツトの折返し舌部に該当すると認められる各部分に断続的に見られる黒線は、帯状のものであると認められるが、審決がいうように凹部を形成しているとは、直ちに認定することができない。しかしながら、右各号証によれば、折返し舌部の表面において、断続的な黒い帯状の部分が、それ以外の部分と異なる外観を呈していることは否定できない。そして、この種のデイスケツトにおいて、折返し舌部には、ジヤケツト本体に貼着する以外に何らの処理も施す必要がないことは技術上自明の事項であるから、右の断続的な黒い帯状の部分は、貼着を行つた結果形成されたものと考えるのが相当であるところ、貼着によつて折返し舌部の表面にまで痕跡を及ぼすような貼着手段が熔着以外に存在しないことは、当業者ならば容易に理解できることというべきである。したがつて、引用例記載のジヤケツトの折返し舌部の表面に見られる断続的な黒い帯状の部分は、熔着部にほかならないと認めることができる。
この点について、原告は、引用例記載のジヤケツトにみられる黒い帯状の部分は、熔着には不適な、折返し舌部の縁部とほぼ同一の箇所に存在するから、熔着部ではないと主張する。しかし、引用例記載のジヤケツトにみられる黒い帯状の部分は、右側折返し舌部においては舌部の縁部とほぼ同様な位置にあるようにも見えるが、左側及び上側の折返し舌部においては、各舌部の縁部より相当内側にあるように見えるから、右側折返し舌部に見られる黒い帯状の部分の位置のみを根拠として、引用例記載のジヤケツトにみられる黒線は熔着部ではないとすることはできない。
また原告は、熔着部ならば平滑光沢面を有するから下端が白く光るはずであるとも主張するが、一般に熔着部の凹部は極めて浅いものであつて、その凹部表面の周面までも平滑光沢面を形成しているとはいえないから、たとえ光が上方あるいは斜上方から照射されたとしても、常にその下端が光るとすることはできないから、原告の右主張も採用できない。
<3> 次に、引用例記載のジヤケツトの上側折返し舌部の熔着位置を検討すると、前掲乙第二号証及び甲第七号証の二ないし四によれば、上側折返し舌部の右側には、黒い帯状の部分、すなわち熔着部が存在することが認められるが、上側折返し舌部の左側は、デイスケツト操作者の右手指の陰になるため、同様の熔着部が存在するか否か明らかでない。しかし、上側折返し舌部を熔着する場合、熔着箇所を一箇所に限定するならば、上側折返し舌部のほぼ中央に選定するのが技術常識と考えられるところ、引用例記載のジヤケツトにおいては、上側折返し舌部の中央付近には熔着部が見いだせず、上側折返し舌部の右側にあるのであるから、引用例のものの熔着箇所は一箇所ではなく二箇所であり、しかも他の一箇所は上側折返し舌部の左側に存在すると考えるのが相当である。
<4> そうすると、引用例を見たかぎりでは、そこに記載されているジヤケツトの上側折返しの右側に見られる黒い帯状の部分が凹部であると直ちに認めることができず、また、上側折返しの左側に黒い帯状の部分が存在するか否か確認できないとしても、引用例は、ジヤケツトの左側及び右側の折返し舌部、並びに上側折返し舌部の両側をジヤケツト本体に熔着したデイスケツトが記載されていると認めるべきものであつて、この点における審決の認定に誤りはない。
3 本願発明が、最終的に折り曲げるジヤケツト舌部の熔着位置が挿入したデイスクの面外にあることをその構成の要件とするのに対し、引用例記載のジヤケツトにおいては、最終的に折り曲げる舌部の熔着位置が挿入したデイスクの面外にあるか否か明らかでない点において両者が相違することは、当事者間に争いがない。
この相違点について、審決は、袋状の物を高周波熔着法によつて封入する場合、被収納物に影響を与えないようにすることは極めて当然のことと認められると判断している。引用例記載のジヤケツトに用いられた熔着法は、引用例をみる限りでは、それが高周波熔着法であるか否か明らかではないが、成立に争いない乙第一号証によれば、塩化ビニルやポリエチレンなどの熱可塑性プラスチツク・シートの溶接には、高周波加熱が適しており多量生産に向いていることは、本件出願当時公知の事項であつたものと認められるから、引用例記載のジヤケツトの熔着も、高周波熔着法によつて行われているとみることはごく自然であつて、原告もこの点は争わないところである。
そして、袋状の物に被収納物を収納した後、蓋部(折返し舌部)の折曲げ貼着によつて封ずる場合、貼着の結果被収納物が傷ついたり汚れたりしないようにすること、換言すれば、被収納物に影響を与えないように配慮することも極めて当然のことである。四角いジヤケツト内に丸いデイスクを収納して作製するデイスケツトにおいても、このことは変わらないばかりでなく、むしろ、本願発明や引用例記載のものに係るデイスクは、傷や汚れを極端に嫌うものであることが技術上自明であるから、デイスクを収納したジヤケツトの熔着に当たり、デイスクに傷や汚れが付着するのを積極的に防止することは、必然的に要求される事項であるというべきである。したがつて、デイスクをジヤケツトに収納した後、最後に折り曲げた上側の折返し舌部を熔着する場合に、デイスクの収納につき必然的に要求される前記の事項を勘案すれば、上側の折返し舌部を熔着する箇所は、デイスクの存在しない箇所、すなわち、挿入されたデイスク面を外れた部分を選択すべきであることは、当業者ならば当然に考慮することであると認められるのであつて、本願発明における上側折返し舌部の熔着箇所の選択に格別の創意を要するとは到底認められない。
してみると、本願発明と引用例記載のものとの相違点は容易になし得る設計変更にすぎないとした審決の判断にも、誤りはない。
4 以上のとおりであるから、審決の、本願発明と引用例記載のものとの一致点の認定及び相違点に対する判断に誤りはなく、本願発明は引用例記載のものから当業者が容易に発明をすることができたとする審決の結論は、正当である。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
四角いジヤケツト内に丸いデイスクを挿入したデイスケツトにおいて、前記デイスクが四角いジヤケツトから突出しないように部分的に周囲を熔着し、かつ、前記ジヤケツトへ前記デイスク挿入後、最終的に折り曲げるジヤケツトの舌部をジヤケツト本体へ部分的に熔着し、その熔着位置が前記デイスク面外のデイスク両側にあることを特徴とする部分封入式デイスケツト